小林人
ふるさとのために 今、自分ができることを。
山灰を利用した磁器ストラップを作成する陶芸家川路庸山さんを訪ね、夷守へ向かった。コスモス牧場の手前から脇道に入ると、庭先が広く、見渡しのよい場所に出た。南九州唯一の陶磁器専門工房「庸山窯」だ。
店内には、有田焼の特徴である透き通るような純粋な白の和食器、照明などが並んでいる。その中で、独特の存在感を出す赤褐色の食器が目を引いた。「新燃岳の火山灰を混ぜた磁器です。焼くとこういった色になるんです」と川路さんは話す。
川路さんは高校卒業後、佐賀県有田市の有田窯業大学校で陶芸の基礎を学んだ。その後、日本各地、メキシコに遊学。感性に磨きをかけ、市内へ移住、現在の工房をかまえた。
火山灰を利用した磁器ストラップを作るにあたり、川路さんは高原町の友人である吉村司さんと構想を練った。
川路さんは、素材の配合を幾度もテストし、ガラス成分がキラキラ光る磁器「新燃きらめきストラップ」を完成させた。
原料である火山灰は、硬質で尖っているため、手を傷つけたが、「ふるさとのために何かできることを」と、川路さんはひとつひとつ復興の願いを込めて丁寧に作っている。
出来上がったストラップは、被災した現場の方々により梱包され、インターネット等で販売。経費以外の全ての利益を、復興支援金として寄付していく。
幼少の頃から創造力が豊かであったという川路さんは宮崎市生まれ。陶芸家北大路魯山人に感銘を受け、自作の器に料理を盛りたいという夢を持ち、陶芸の道へ。メキシコへ渡り、現地の人と文化に触れた際に「精巧に作るだけでなく、意味や感覚的なものを込める」というヒントを得て、伝統的で精巧な磁器に「くずし」を入れる独特の手法をとる。現在は、宮崎県工芸協会副会長、県美術協会理事を務め、福祉施設の商品に帽子のデザイン等の提供(ハロー・アーティスト事業)を行うなど、活動の場を広げている。
(「広報こばやし」平成23年4月号掲載)